相続した賃貸住宅の家賃について
不動産の賃貸人である父が亡くなり、相続人が長男と二男というケース。相続開始日から例えば3カ月後に遺産分割協議がまとまり長男が単独で賃貸不動産を相続することが決まった場合、分割確定後の賃料等は長男が単独で取得します。二男もこれには納得します。
しかし、遺産分割確定までの3カ月間の賃料等は誰が取得するのかという点は、しばしば兄弟間で争いとなります。
この点に関して、最高裁平成17年9月8日判決では次のように判断しています。
① 相続発生から遺産分割が確定するまでの間は、遺産は共同相続人全員の共有財産である
② 相続発生後に遺産である賃貸不動産から生じた賃料収入は、遺産とは別個の財産であり、遺産分割確定までの間の賃料は共同相続人が法定相続分に応じて確定的に分割取得する
③ 遺産分割の効力は相続開始日まで遡るのが原則であるが、その効力が及ぶのは遺産である賃貸不動産に対してであって、そこから発生する賃料収入には及ばない。
つまり、3カ月後に遺産分割が確定し、賃貸不動産を長男が相続することに決まったとしても、その間の賃料は長男と二男が法定相続分に従って2分の1ずつ取得するということです。
では、賃貸不動産だけではなく相続開始日以降の賃料等も全て長男が単独取得することを長男と二男で合意しても、法的には認められないのでしょうか。
この点について、東京高裁昭和63年1月14日判決では、「相続人全員の合意で賃料まで遺産分割協議で合意した場合は、賃料も遺産分割協議の対象に含める」としています。
また、前記最高裁平成17年9月18日判決後も、「相続人全員の合意があれば、賃料について遺産分割の対象に含めても前記最高裁の判決に直ちに抵触しない」という見解も実務家において有力です。
従って、遺産分割が確定するまでの間の賃料収入については、長男と二男が法定相続分通りに取得するのが原則ではあるものの、2人の合意さえあれば長男に全額を取得させることも可能であると言えそうです。
一方で、税務はどうなるのでしょうか。ここで問題となるのは、相続税ではなく所得税です。
所得税法上、毎年1月1日から12月31日までの所得については、翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告をしなければなりません。
従って、長男と二男の遺産分割協議がまとまらないまま相続開始年の年末を迎えた場合、遺産である賃貸不動産は長男と二男の共有状態にあることになりますので、そこから生ずる所得も原則通り法定相続分に応じて帰属します。
従って、その間に賃料を供託していたり、長男名義の預貯金口座で管理していたりした場合であっても、長男と二男が法定相続分に応じて2分の1ずつの割合で所得税の申告・納付を行わなければならないのです。
では、その申告後に遺産分割協議がまとまり、賃貸不動産及び相続開始日以降の賃料全額を長男に単独取得させることを兄弟で合意した場合、申告済みの所得税の扱いはどうなるのでしょうか。
遺産分割の効力は相続開始日に遡るわけですから、所得税の申告も遡及して是正できるのかが問題となります。
この点に関して、民法は、その遡及によって「第三者の権利を害することはできない」と規定しており、この「第三者」には所轄税務署長が含まれていると解されています。
従って、遺産分割の確定を理由に、各相続人間の所得金額の異動を申告する所得税の修正申告又は更生の請求は認められていません。
合意に従って、実際に遺産分割確定までの間の賃料を二男から長男に精算してしまうと、原則としてそれは二男から長男への贈与と考えられ、長男に贈与税が課税される場合もありますので注意が必要です。
そのような場合は、その精算賃料が二男から長男への「代償交付財産」であることを分割協議書で明確にしておけば、贈与と認定されることはないと思われます。
このように、不動産オーナーの相続では、遺産分割協議となると色々と面倒なことが起こりそうです。
遺産分割協議不要で相続開始とともにすぐに賃貸不動産の取得者を確定させ、その者に最初から法的にも税務的にも問題のない形で賃料等の全額を取得させるためには、オーナーの遺言書作成か家族信託(遺言代用信託)の活用です。
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